気持ちのいい発声講座

1. 理論と感覚の接点

<レッスン1> 楽な呼吸をしよう♪

歌う人なら誰でも知っておきたいのは、「楽な呼吸」です。呼吸は動きです。そして私達は全身で呼吸します。
呼吸するたびにひとつひとつの細胞が酸素で養われ浄化されます。呼吸に応じて、すべての関節が動きます。
ちょっとだけ動く関節もあれば、たくさん動く関節もあります。でも、たくさんといってもかなり繊細なたくさんです。

あなたは関節を固めていませんか?
関節はどこにありますか?
そうです、関節は固めるところではありません。

そうなのです、関節は動きが始まるところです。呼吸に伴って脊椎が伸びたり寄り集まったりするので、頭も動きます。
立っている時には脚が呼吸を支えます。脚も歌う楽器の構造の一部なのです。そして胴体全体が呼吸の動きに参加します。

胸部:胸を固めないで下さい。肋骨は動かない檻ではありません。そう、前は軟骨、後ろは関節になっています・・・つまり動く構造になっています。思い出して。

腹部:「支えを強くしよう」と固めていませんか?横隔膜は下降する時、腹壁(注1)の前後左右を外側に動かします。腹壁に緊張があれば腹壁の動きを妨げて、肋骨と横隔膜の動きが制限されます。腹壁が硬いと、横隔膜が戻る時(息を吐く時,歌う時)にはね返る力が弱くなって、そのために支えの源が失われます。呼吸の動きが混乱して自然な潮の満ち引きのような性質が失われ、結果的に息が苦しい、しんどい、息が続かないということになるのです。

骨盤:骨盤の中にある骨盤底も動きます。お臍の下や大腿筋を固めていませんか?固めるのでも、緩め(曲げ)過ぎるのでもなく、バランスを取って下さい。あなたの恋人!?スケレットくん(注2)を思い出して。

歌う楽器の構造は骨の構造です。(注3)そしてその骨の構造に支えられている時、からだの表面にある筋肉は、表現のために自由に美しく動くのです。

(注1)腹壁:前側、両側面、後ろ側の層になった円柱の筋肉。前側半分だけではない。ただ骨盤と脊椎があるので、背中と両側でいくらかの抵抗にあう。しかしこれは動きがないということを意味するのではないからね。
(注2)スケレットくん:45cmの骸骨モデル。「アンドーヴァー・エジュケーター6時間コース」で使われている。
(注3)「骨の構造」と言える一方で、「つながった筋膜の構造」とも言えます。

<レッスン2> よく支えて歌うために、大腰筋と横隔膜にお願いしよう♪

お願いするとは、強要することではありません。自分をオープンにして、むしろそこに現われているものを受け入れることです。
必要なふさわしい時に最善の結果が得られるように信頼することです。
大腰筋と横隔膜に、歌う時にうまく働いてくれるようそんなお願いをして下さい。
なぜなら、大腰筋も横隔膜も不随筋(意識で動かすことができない筋肉)だからです。
大腰筋と横隔膜の位置、大きさ、形状、働きをもう一度確かめましょう。

横隔膜:偉大なるドーム型の筋肉です。(パラシュート型、きのこ型、お鍋のふた型、円形テント・・・)胸とおなかの空間(胸腔と腹腔)の間で、肋骨全体に広がっています。ドームの基部は下方の肋骨から始まっています。横隔膜の下降(平らになること)は息を吸う時肋骨が外側へ上へ動くのを助けます。また横隔膜の上昇(ドームの形に戻ること)は息を吐く時に肋骨が内側に下へ動くのを助けます。横隔膜の動きは、私達が舌の動きがわかるように直接的には感じられません。でも、おなかが動いたりして(内臓の移動により腹壁、胴体の前・横・後ろが動くことにより)知覚することができます。

大腰筋:横隔膜の下側から発し、脊椎に添って骨盤の中を通り股関節へ。左右一対の大きな太い筋肉。歩くことにだけ関係しているのではありませんよ。それから、これらが動き始めるのを邪魔しないように立ちましょう。それから、うふふっ・・・お願いするのです。でもここで、もうひとつ大切なことがあります。それはからだの内側の筋肉(横隔膜の底部から続いていて骨盤までの大腰筋など)と外側の筋肉(腹筋、背筋、臀筋など)をはっきり区別することです。この内側の筋肉が緊張から解放されていれば、歌う時にこれらを動的な支え、エネルギー、強い反応力などとして生き生きと感じ取ることができます。それがいわゆる「しっかりとした支え」で、腹筋などを「固めること」とははっきり区別されるものなのです。

<レッスン3> 喉と首♪

喉と首をはっきり区別しましょう。首は大きな筋肉群におおわれていて、脊椎(脊髄)・食道・気管がそこを通ります。
喉のある気管は食道の前です。食べ物のためのチューブの食道の方が気管より前だとなんとなく思っていた人いませんか?
そういう人は喉が硬くなるのです。
空気のためのチューブは食物チューブの前にあって、これが知覚されると喉の緊張は解かれるのです。

また、息を吸う時、大きな音のする人いませんか?
そういう人は食道と気管に巻きついている物を飲み込むための筋肉(下咽頭収縮筋)を息を吸うことに使っているのです。
これは本来息を吸う時に使われるべき筋肉ではないので、大きな雑音が出ます。雑音の混じった呼吸になるだけでなく、呼吸の大きな妨げとなります。

鼻の孔(あな)から空気の通る頭蓋骨の中の空洞を想像して下さい。
鼻の孔より空洞は上方に空いていますよ。それから鼻の後ろの鼻咽頭。
口の後ろ・舌の奥の咽頭口部、喉頭の後ろの咽頭喉頭部。喉はこの3つの部分(空間)から成り立っています。
喉を無理に開けようとしなくても、そこにこれらの空間があるのです。この空間を知覚しましょう。

空気の出入りはこれらの鼻の空間と口を通して行われます。その通り道の粘膜を感じることができますか?
そこには触覚の受容器がたくさんあります。触覚を使って歌うこともできるのです。

<レッスン4> 舌は垂直♪

舌は水平(横)ではなく、垂直の構造です。
舌の前と上はどこからか明らかでも、舌の下部と後ろはどこまでなのかはっきり知覚できていますか?
舌の動きは複雑です。複雑な筋繊維の構造物です。
歌う時に必要なのは、舌の正確なマップで、筋感覚と触覚を使うことによって必要に応じて舌が自在に動くように発達させることでしょう。

<レッスン5> あごは一つ♪

あごは上下に二つあるのではなく、ひとつ、下の歯がはえていることろです。
上の歯がはえているところは頭蓋骨です。あごが動くのは二つの関節で、左右にひとつずつあって顎関節といいます。
顎関節があるのは耳の前です。後ろではありません。
あごはそこから動くのです。つまりあごの関節はこんなに上の方にあるのです。

あごは、頭蓋骨との関係で、なめらかに力強くバランスしています。
頭蓋骨は脊椎との関係で、なめらかに力強くバランスします。
つまり首が固まっていないで自由なら、あごは頭蓋骨との関係でらくに動きます。
首が硬ければ、その程度に応じてあごの動きは制限されてしまいます。
あなたは動きの制限されたあごを無理やり動かそうとしていませんか?
そうではなくて、あごの構造と大きさと動き方を確認して、うまく動いてくれるようにお願いしてみましょう。

<レッスン6> 重力の上手な使い方♪

からだの筋肉は重力の力を使ってバランスが取れるように組織されています。
重力がからだに作用する時、それはからだを下に押し下げるだけではないのです。
からだの構造には重力の下向きの力を使ってからだを上向きに伸ばし(元の大きさに戻し)強くする反射のメカニズムが備わっています。

これが特にはっきりと現われるのは脚です。
私達の体重の圧力が脚に伝わっておりていくと、それと同じ大きさの反対の力が上向きに働きます。
これによって直立の安定を維持できるのです。

立つ時、あなたの体重は脊椎や脚の骨を伝わって足の裏までちゃんとおりていますか?
腰や膝で寄り道をしていませんか?

2. 声はどこから出るの?(会話編)

ある高校生の素朴な疑問。

S:「先生、声はどこから出るの?」

H:「えっ?」

S:「小学校の時の音楽の先生はお腹から声を出しなさいって言ったし、中学校の先生は鼻の上から、高校の先生は頭の上からって言うんだけど、どれが正しいの?」

H:(一瞬絶句。それから笑って)「どれも正しいョ。でも、正確にはどれも間違っているとも言えるかなあ~」

S:「えっ、先生どういうこと?」

H:「お腹から声を出しなさいって、お腹から声が出た?」

S:(お腹を見ながら)「うん~ん、お腹からは声は出ないと思うな。」

H:「そう、お腹から声を出しなさいっていうのは、お腹を使うってことだよね」

S:「うん、それはなんとなくわかるけど・・・でもどう使うのか、わかんないまま。そしたら今度は中学校の先生が鼻の上からって。
その先生はお腹のことは何にも言わなかった。鼻の上から出そうとすると、なんかそこから声が出ているような気がするんだけど、
しばらくそれで歌ってるとなんか苦しくなってきて。でも、先生はそこで保って歌うんだ、って言うんだ」

H:「(笑) うん、いいとこついてるな。ところで、『横隔膜』って聞いたことある?」

S:「うん、あるけど・・・・・」

H:「じゃあ、どこにある?」

S:「(胃のあたりを触りながら)このへんかなあ~」

H:「そこって、胃じゃあないの?」

S:「胃だけどオ・・・・??????」

H:「ごめんごめん、今のはちょっと意地悪したんだよ。正確には横隔膜には触れないんだよ」

S:「な~んだ」

H:「身体の中を横切って2つの部分に隔ててる筋肉なんだよ。それが肺を包む胸膜にくっついてるわけ。
それで息を吐いたり吸ったりする時に上がったり下がったりするんだよ。その時、横隔膜のすぐ下には胃があるでしょ。
だから肺に息がいっぱい入って横隔膜が押し下げられると、胃も押されてその分前に出てきて、お腹が動くんだって思うんだよ」

S:「ああ、だからご飯食べてお腹がいっぱいの時は歌いにくいんだね」

H:「その通り。これがいわゆる腹式呼吸ってやつだよ」

S:「でも、横隔膜が正しく動いているかどうかって、自分では分からないけど。」

H:「それはね、横隔膜が不随筋だからだよ」

S:「えっ?横隔膜って筋肉なの?」

H:「そうだよ。しかもかなり丈夫なね。」

S:「じゃあ、鍛える方法ってあるのかなあ~?」

H:「でも、不随筋だよ。」

S:「不随筋って・・・・自分の意思で動かすことができないってことだよねえ~。副交感神経が関係してるんだよ。」

H:「よく知ってるね。すごい!副交感神経ってことは・・?」

S:「リラックスが大切なんだ。^^)v」

H:「そう、その通り」

S:「でも、腹式呼吸って腹筋が関係するのではなかったの??!!」

H:「関係するけど、それをまず締めないことが大切なんだよ。」

S:「えっ・・????いつも『下腹を締めて支えて』歌いなさいって言われているし、そう注意しているけど・・・・」

H:「それで、息が充分続いてる?」

S:「ううん、いつも足りないよ。」

H:「それは腹筋を含めたおなかの周りの筋肉を締めすぎているから、その内側が固まって横隔膜なんかが動かなくなってるから息が続かないんだよ。
それに呼吸のために主に働くのは、腹筋ではなくて大腰筋だよ。」

S:「えっ・・??!!大腰筋・・・??聞いたこと無いよ。それに、締めすぎ・・・??なんだかショックだなあ~。だって、いつもしっかり締めてるし、それが足りないと思ってるから・・・・」

H:「うまくいかない時には、自分が何のために何をしているのか、それで本当にいいのか・・・もう一度確かめてみる必要があるね。
だって歌うことはものすごく自然なことで、気持ちいいんだよ。身体が苦しい時は、何か無理なことや間違った偏ったことをしている可能性があるよ」

S:「でも、迫力出すには・・・・しっかり歌わないと・・・」

H:「そうだけど・・・・これ以上説明するの難しいなあ~。まず、何か歌ってみて・・・それで具体的に・・・・」

3. 歌うテクニーク~心構え編~

①「楽に」と「努力」は両思い

「楽に」歌えるように、・・・・これはうまく「歌うこと」のキーワードだ。「歌う」テクニークにもいろいろあるだろうが、少なくとも私はここ10年以上このことを追求?!してきた。別に苦しみつつ努力をしてきたつもりはないけれど、日本の教育システムの中で自然に真面目に?!していたら、結果的に苦しむことになり、ドイツでもオランダでもアメリカでも最初に言われ最後まで言われる“Enjoy yourself !”が取ってつけたようになってしまう。

だからといって日本式が間違いで欧米式が正しいというつもりはない。しかし自分の限界を感じた時、それを越えられる可能性を感じさせてくれるものが方法としては優れ、またその個人にとってより正しいアプローチだと言うことができるだろう。

しかしその前に、ここで厄介な問題がある。言葉の使い方とそれから受ける印象だ。「楽しい」や「楽に」には大きく分けると二通りの解釈があって、これがまた年代や個人的性格などと相俟ってその意味するところはなんともややこしい。私が言いたい「楽に」はいい加減だったり怠けたりすることではない。「楽に」は「リラックスして楽々と進む」ということで、これは逆に、それを本当に成し遂げるにはより多くの努力が必要だ。「楽に」歌うには「努力」が必要ないかのように思う人がいるが、なぜなら「楽に」と「努力」という言葉が相反するように思えるからだ。でも、これは勘違いもいいところだ。「楽に」と「努力」は相反するものではなく、お互いが同時に成立するためになくてはならない、いわば両思いの関係だ。「楽に歌う」ための「努力」は苦しいものではなく、本当に「楽しい」。なぜなら「自分の歌い方」が、「自分自身」が、見えてくるから。

歌っていて苦しかったり悩みがあるのは、何かやり方を変える必要があるという警告であることが多い。何を間違っているのか素早く適確に判断して、何かをやめ必要な新しいことを学び、次のステップに移ることだ。自分の(真ではなく)浅はかな欲求、あるいはまた他の誰かの言う通りにするために、自分の身体をむち打ち負担をかけながらも、わけもわからず何かをやり遂げる「努力」を私は「努力」とは言わない。これは真の努力ではなく、単なる「骨折り」「無駄骨」だ。まさに「骨を折る」ほど身体に負担をかけているのではないだろうか。

「負担」は形容詞で表現すれば「重い」ということになる。歌っていて身体が「重く」感じる時、何かを大変だと感じる時、もう一度その方法を見つめなおす必要があるだろう。やり遂げたことやその量に関係なく、またそれが多ければ多いほど、楽々とすがすがしく歌ってのけようではないか。ボディ・マップは私たちの力強い味方だ。そして、真実は身体に優しい。

②「満足」と「向上心」もラブラブ

「満足していては向上はない」と考えている人が多くないだろうか。「不満」をバネにして自分を奮い立たせようとしていないだろうか。でも私は、それは間違っているのではないかと思う。なぜならこれだといつまでも「不満」が残ってしまい、思うように自分の力が発揮できない。成長するには自分のやってきたことをまず受け入れなければならないだろう。「満足」は今に甘んじることではなく、自分のやってきたことを認めそれに喜びを見出し、感謝と熱意を持って次のステップに向上しようと努めることそのものだろう。

「満足」して歌っていれば、新しいことがわかってくる。心を開いていれば、歌うことに喜びを感じることができるようになる。そして思いがけない成果を上げることができるだろう。たとえ一時的に不満に思うことがあってもいつも満足するように心がけることは、とっておきの秘密の心構えといえそうである。

4. 歌うテクニーク~心理編~

①思ったように行かない?いや、思ったように行くのだ!

「うまく歌おう」とすると、「うまく歌おうとしている」ようにはなるが、いつまでたってもうまく歌えない。そもそも「うまく」というのは何を意味するのか? でも、「美しい声で歌おう」「響きの豊かな声で歌おう」と考えた時、それができるようになるのか? 息が充分続かないので、「息が長く続くように歌おう」と思っても、それができるようになるのか? それどころか、練習すればするほどますます息は苦しくなったりもする。豊かに響くどころか、ますます首を絞めたような声になる時だってある。なぜか?

なぜなら、それらは外側からの、しかも時間差のある結果、余波的な結果の部分に意識が集まっているからだ。自らの注目が不必要にそこに移動しているといえる。思ったように行かないのではなく、いやむしろ、当然の結果が現れているのだ。

つまり、自分が歌うことに対する、「アイデア」「考え」「思い」「こうしたいという欲求」「何に注意するか」の的が外れているので、結果も的外れになるのだ。結果として求めている状況・欲望と、歌う時の今の自分・自分の意識が向かうところをはっきりと区別し、切り離す必要がある。

「うまく歌おうという欲求」ではなく、「音楽的身体内感覚」というべき必然だ。具体的には、表現している内容・感情から来る、歌う時の身体の気づき・内なる動きだ。

このとき初めて、自らのエネルギーが有効に歌うことに変換され、聴衆を魅了し感動を与えることができるだろう。

そういえば、オリンピック選手のインタビューでよく耳にするではないか。

「金メダル獲得への抱負は・・・?」
「普段どおりに・・・・ベストを尽くします。」

結果(欲望)と自分を切り離すことができた時、物事はうまく運ぶ。なぜならば、運ぶのは「物事」だ。そういえば「無欲で臨む」というではないか。

②私は声が小さい?!本当にそうなの?

ある日のレッスン風景。いつまでたっても声の小さい受験生。私が見ることろ、その原因は明らかに、歌う直前に入る不必要な力みだ。「要らない力が入りすぎているよ」と私が指摘しても、一向にぴんと来ない様子。

しばらくして、私は彼女にこう尋ねた。

「自分の声が小さいと思っているの?」

「はい。」

「だから、しっかり歌わなきゃあって思ってる?!」

「はい。」(一呼吸おいて)

「あなたの声は小さくないし、だからしっかり歌おうと思わなくていいよ。自分の声でそのまま歌ってごらん。」

なんとなんと次の瞬間、彼女は今までの倍の音量で歌い出した。

③私は身体が硬い!?私は身体が使えていない!?本当にそうなの?

また、ある日のレッスン風景。

アレクサンダー・テクニークのレッスンにも、時にはフェルデンクライスのレッスンにも通っている、音大卒業生も真っ青なぐらいオペラアリアを歌うソプラノの人。
普段は事務職だから、確かに身体も硬くなることもあるだろう。でも、歌う時、何で身体がそんなにしんどいのかな?!

「歌う時、自分は『身体がうまく使えていない』と思っていますか?」

だから『しっかり身体を使って歌わなければ』と、いつも思っていますか?」

「はい、そうですけど。 だいぶ柔らかくなった部分もありますけど、胸はまだとても硬いし、歌う時の支えの感じがよくわかっていません。だから『しっかり支えようと』思って歌っています。」

「ああ~、そうですかあ~。 では、『支えなくてもいい』、『今のままで十分歌える』と思って、歌い始めるとどうなりますか?」

次の瞬間、彼女はより伸びやかに歌い始めた。

「楽ですねえ~。」

「音量や声の広がり、どうなったと思いますか?」

「あまりよくわかりませんが、なんだか歌いやすいですから、大きくなってますか?」

「そう、倍ぐらいになっていますよ。」

「へえ~?!楽さ加減も倍なんですが......何が起こったのでしょうか?」

「『今のままでいい』と自分を認めたので、身体が勝手に(自動的に)歌うのに必要なことをやってくれ始めたのです。」

「ああ~...そうかもしれません。それ、わかります。」

「そこが出発点で、そこから『支えを保ったり』、身体をさらに使って自分が思うように歌うことができるのではないでしょうか?」

「ああ~~~!!!!」

彼女の表情は今まで見たことがないくらい柔らかくなって、何とも魅力的な微笑みが、レッスンの最後までずっと続いていた。

うまく歌える「からだ」のつかいかた本コラムでご紹介した内容は、著書『うまく歌える「からだ」のつかいかた』でより詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。

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