Teaching

「どう歌っていいのかわからなくなった」「なんとか歌えるけれど、苦しい。何か間違っているのではないか?」「もうこれ以上、歌えない感じがする」「声が出にくくなった」、そんなとき何かお手伝いできるでしょう。

もしよろしかったら、レッスンにお越しください。もしよろしかったら、講座にご参加ください。もしよろしかったら『うまく歌える「からだ」のつかいかた』という本を読んでください。

あなたを応援いたします。先に進めるヒントをお知らせできるでしょう。

いっしょに学んでいきませんか?

私がレッスンするとき、ベースになっていることが4つあります。

  1.  私が学んだ歌唱法~無理をせず、自分に合った自然な方法で歌う
  2.  ボディ・マッピングとアレクサンダー・テクニーク
  3.  解剖学・生理学・心理学
  4.  歌唱法とは別に、「歌うよい楽器に訓練する」という概念

それぞれの詳細は、あとで解説します。

そしてこれらを元に、次のことをレッスンではやっていきます。

1⃣ 「できないこと」は悪くない
2⃣ 邪魔しているものを取り除く
3⃣ 適切な訓練・練習を促す
4⃣ 個人にあったレパートリーを拡げる

1⃣  「できないこと」は悪くない

「できないことを見せないように、なんとかうまくやろう」と思わないで、レッスンでは「何ができないのか」しっかり見せてください。安心して、そのまま歌ってください。「何ができないか」を自分で認識できること、自分でわかることが、よくなる第一歩です。つまり、「できないこと」がわかった時点で、あなたには「できるようになる」一歩が始まっているのです。なぜならば、「できない」には理由があり、つまり解決策があるのです。

2⃣  邪魔しているものを取り除く

一生懸命やろうとすればするほど、思い通りに行かなくなることはありませんか?それは、単に調子が悪いのではなく、“癖”に陥っているからでしょう。たくさん繰り返しの練習をしたから、またレッスンを何年にもわたって受けている間に、「塵も積もって癖となっている」のです。よいことを身につけても、それとは別のことが癖となって邪魔をしているのかもしれません。

ここでのポイントは、「何をするか」ではなく、「何をやめるか」です。よいと思ってやっていることの中に、不必要なことが混じっているのかもしれません。不必要なことを「やめる」には、自分が「何をしているか」に気づかなければなりません。

3⃣  適切な訓練・練習を促す

目標の演奏会を定めて、ひたすらそれに向かって努力。しかしそれが終わったら、バタッと歌うことはお休み。なぜなら声の調子が悪くなったから。そうでなくても声の消耗は増していて、忙しさや年齢のせいにしている人はいませんか?

“気持ち”だけでは歌えません。それはあることが前提で、必要なことを訓練しなければ、気ばかり先走りどんどん歌えなくなってしまいます。

4⃣  個人にあったレパートリーを拡げる

私のレッスンでは、「その人のからだと声が喜ぶこと」を基本に、次のステップに誘います。からだが苦しいのに曲が歌えることに、意味を見いだしません。第一の目的は「今、自分のからだが(心地よく)音楽すること」であり、結果的に、その曲が歌えるようになると理解していただきたいのです。これらの過程がうまくいけば、歌えないとあきらめていた曲もいつの間にか歌えるようにもなるでしょう。つまり、主役は音楽ではなく「あなた自身」であり、音楽はあなたと共にあるのです。

2019年目白での公開講座。後ろの図はメディカル・アーティストの阿久津裕彦先生によるもの。前半が阿久津先生の講義があり、後半が川井弘子の公開レッスンだった。

では、これらのレッスンをするようになった理由、私が学んできた4つのことについて説明いたします。

  1.  私が学んだ歌唱法~無理をせず、自分に合った自然な方法で歌う
  2.  ボディ・マッピングとアレクサンダー・テクニーク
  3.  解剖学・生理学・心理学
  4.  歌唱法とは別に、「歌うよい楽器に訓練する」という概念

1.  私が学んだ歌唱法~無理をせず、自分に合った自然な方法で歌う

私が出会った声楽の先生の中でもっとも影響を受けたのは、アムステルダムのマリアンネ・ブロック先生(Marianne Blok 1941-2021)です。先生は私に「シンプルで自然な方法で歌う」ことを教えてくださいました。それはイタリア式の前に声を強くあてたり、ドイツ式のノドの奥をあけて大きな声を響かせるといった“技術”ではなく、自分に合った方法でノドを解放することで、結果的に、声を遠くまで運ぶことができるトレーニングです。そしてそのトレーニングを、私は今も継続中です。

Marianne Blok 2003年

Marianne Blok 2003年

さらに、オランダでは4・5か国語話せる人もふつうにいて、言語に対する私の感覚が大きく変わったのもオランダ留学時代でした。マリアンネ先生の生徒たちも何とも多国籍で、様々な言語で話し、歌っていました。私は先生のもとで、イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語の歌を学ぶ機会がありました。さらに、日本歌曲を先生のレッスンに持っていきました。不思議だったのは、日本語を知らないのに、ローマ字で書いた楽譜の日本語をそのまま先生が歌われると、言葉は明瞭で、その歌はなんとも情感豊かだったことです。先生からは、「ここは何を言っているのかわからない」などと、日本歌曲でも多くの指摘をうけました。そしてそのどれもが、私には心当たりのあることばかりでした。

1994年 クリスマスコンサートの後で。真ん中がマリアンネ先生。弘子は左端。この日、5人全員が歌った。

Let it sing ! Let it happen !

私もまだまだ練習中です。いっしょに歌っていきましょう。

私が楽器の方にレッスンするときにも、マリアンネ先生とのレッスンでの経験からヒントを得て、アドバイスしています。なぜならそこには、その人がその人らしく音楽することの真実や普遍性へのヒントがあったからです。

2.《ボディ・マッピング》とアレクサンダー・テクニーク

2001年、音楽家のための《ボディ・マッピング》を教える訓練をその創始者であるバーバラ・コナブル先生からアメリカ、オレゴン州ポートランドで受け、教える資格を取得しました。『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』(誠信書房)の日本語版が出版された2000年春、その内容にピンときた私は、すぐに著者のバーバラ先生にコンタクトを取り、同年夏にはアメリカにいました。

Barbara Conable 2001年

そもそもドイツ留学中に、アレクサンダー・テクニーク(以下AT)の個人レッスンを音大で受け始めた(注1)私は、その効果を感じる一方、漫然とした何かに悶々としていました。ドイツから帰国後も、アレクサンダー・テクニークのレッスン受講を日本で継続し、片桐ユズル先生(注2)からの依頼で、倉敷で何人かの欧米から来日したAT教師のレッスンをお世話する機会がありました。その中のひとりがバーバラ先生で、つまり以前に面識があったのです。

『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』の本は、職業的音楽家を対象として、からだの理論をわかりやすく説明した本でした。アメリカではプロの音楽家の40%以上が演奏中にからだの痛みがあり(注2)、あるいは演奏中に痛みを感じたことがある演奏家が84%もいる(注3)ことが調査でわかっています。演奏家が苦悩していると知ったバーバラは、演奏家の将来のために、この書籍と同名の6時間コース、からだの動きについて教えるコースで、多くの職業的音楽家を救っていました。ピアニストが腱鞘炎になるのも、チェロやコントラバス奏者が肘が痛くなるのも、フルート奏者が首や背中が凝るのも、声楽家が声が出にくくなるのも、それぞれのからだの動きから説明がつくのです。つまり、その動きを修正することでからだの痛みは大きく改善されます。一方、ヴァイオリニストやピアニスとの指の動きがおかしくなる、急に跳ね上がったり丸まったりなど(これはちょっとややこしく音楽家のフォーカル・ジストニアでしょう)は、ボディ・マッピングやアレクサンダー・テクニークではなく、別の解決方法がよいでしょう。

私の個人レッスンでは、必要に応じて《ボディ・マッピング》をお教えし、また6時間コース(たいていは2日間コース)「音楽家ならだれでも知っておきたい『からだ』のこと」も、ときに開催しています。

Jean Stawski 1988年

(注1)当時、私がミュンヘンでプライベートレッスンを受講していたシュタヴスキ―(Jean Stawski 1930-2023)先生から聞いたのが最初で、ATに興味を持ちレッスンを受講しはじめた。(川井弘子著『うまく歌える「からだ」のつかいかた』(誠信書房)、p.13参照)

(注2)片桐ユズル(1931- ):英語一般意味論の日本の大家、京都精華大学名誉教授。初めてアレクサンダー・テクニーク教師を日本に招聘、自らも1997年に公認AT講師となる。
https://yuzurukatagiri.net/

(注3)ジェニファー・ジョンソン著『ヴァイオリン奏者ならだれでも知っておきたいからだのこと』(春秋社)、3。 Statistics tell us that over forty percent of all professional musicians paly in pain. (from” What Every Violinist needs to know about the Body” p.10)

(注4)84% had experienced pain or injuries that had interfered with playing their instrument or in participating in normal orchestra rehearsals and performances. -Bronwen Ackerman et al. 2012

ボディ・マッピングとは?

「ボディ・マップ」とは「からだの地図帳」のことで、「自分の頭の中に自分がどのように描かれているか」ということです。単なるイメージではなく、実際に体現化されたものを指します。そして、そのマップが現地と異なり思い違いがあるのならば、うまく動けず痛みをかかえやすいことが研究からわかっています。

「ボディ・マッピング」とは、自分の今もっているからだの地図を認識すること、またもし間違っているのならば修正することです。もし首が凝り背中が演奏中に痛むのなら、首と頭が、さらに肩甲骨やその一帯の使い方が本来の構造に反するからかもしれません。もし肘が痛いのなら、本来動きが始まる関節の位置を少しずれて思い込んでいるのかもしれないのです。いっしょにマッピングしていきましょう。

アレクサンダー・テクニークとは?

アレクサンダーによって発見された、自分の使い方のテクニークです。F.M.アレクサンダー(Frederic Mathaias Alexsander 1869-1955)はオーストラリアのタスマニア島生まれで、シェイクスピア劇の朗唱家としてロンドンで活躍しました。しかしあるとき、朗唱の途中で声がかすれて出なくなるトラブルに見舞われます。ドクターが勧めるように声を使わなければ声は復活するものの、また同じことが本番で起こりました。困った彼は、自分でその解決方法を見出そうと、自分がいったい何をしているのかを鏡の前で観察しはじめました。それで彼は、さまざまなからだのことを発見していきます。

部分だけ修正してもうまくいかないこと、意識して「する」ことはよい結果をもたらさないこと(バランスを崩してしまうこと)、「意識してすること」と実際にからだがやっていること/起こっていることとの間にずれがあること、ではどのように思うとからだはうまく動くのか、そのとき首と頭と背中がどんな関係にあるのか…etcを次々と発見し、その方法をレッスンしました。言葉掛けと生徒にかすかに手で触れる(Hands-Onする)ことで、生徒自らが気づき、からだの微妙な調整ができるように促したのです。

現在、欧米では、アレクサンダー・テクニークが音楽大学の授業の中にあります。

3. 解剖学、生理学、心理学

声楽のレッスンを受けていた大学生のとき、先生の言われることと私がそこから理解していることの間にどうもずれがあるのではないかと、どの先生のレッスンでもしばしば疑問を持ちました。さらに、先生が変われば同じ言葉でも意味していることが異なるし、「上」と言われていたことが、今度は「下」になり真逆。いったい私はどうすればいいの?なぜ、指摘がこんなに異なるの?「お腹を使って」とはどこをどのように?「ノドを使わないで」って、歌っているのにノドは使われているのではないの?「ノドの奥」ってどこのこと?

そもそも生物が好きだった私は、大学時代にからだの仕組みや理論に興味を持ちました。しかし、これほどまでに「からだ全体のこと」が歌うことに関係しているとは、またその後、こんなに詳しく解剖学について学ぶとは思いもよりませんでした。

ドイツで音大の授業の中にあったアレクサンダー・テクニークの個人レッスンがきかっけとなり、自分の感覚と言葉や理論の関係に興味を持ちました。さらにアメリカでボディ・マッピングを学ぶことで、私の頭の中が整理され、さらに足りないところを解剖学と生理学、心理学の本で補いました。

これらの集大成として、『うまく歌える「からだ」のつかいかた』『うまく歌える「からだ」のつかいかた《実践編》』『歌う人のための初めての解剖学』という3冊の本ができあがりました。自らの歌う経験や歌うときの自分の感覚vs解剖学を中心とした理論、歌うことvs教えること、レッスンを受けることvsレッスンすること、日本語vsドイツ語vs英語、これらの間を行き来しながら、それらの違いの中で気づき、感じたことをまとめた形です。そして今も、自分が歌い、レッスンする中で、その気づきは進行しています。

初めての自著

『うまく歌える「からだ」のつかいかた~ソマティクスから導いたもう一つの歌うメトード~』

「うまく歌える『からだ』のつかいかた」という確固としたものなんて、実は存在しないのです。歌うことについて何か言える/書ける/教えられるとしたら、それは<歌うためのヒント集>ということになるでしょう。

「歌う」には「心」がもっとも大切だとよく言われますが、気持ちだけではうまく歌えないないことは誰もが経験ずみです。心も、技術も、身体も、音楽性も、ソルフェージュもetc.歌うには多くのことが必要です。そう、あなたを導いてくれる適切な指導者も。この本は、そう、この本の中で私がもっとも主張したいのは、それぞれの人にはそれぞれの人の音楽があるように、それぞれの人のからだの使い方があるということです。そこには共通点もある一方で、ひとりひとりまったく異なることもあります。

歌う方法を、すべて言葉で説明することはできません。しかし、最終的には「言葉が邪魔になる」ことを知った上で、練習過程で大きな誤解をまねかないために、歌うことについてある程度理解することが必要です。これらのジレンマを知った上で、それに挑戦したのがこの本であり、2冊目の『うまく歌える「からだ」のつかいかた《実践編》』です。

歌う「心」も、実はからだや環境に散在するのです。そして歌うために習得すべき「技術」という「からだの使い方」があるのではなく、訓練された「からだ」があたかも技術を身につけたかのように歌うのではないでしょうか。だから、他の人が確立した技術や発声理論は、いくらかの参考になるだけですし、多くの研究は結果としての後付けの説明であることを知っておく必要があります。

(一部は、同書P26より)

3冊目の自著

『歌う人のためのはじめての解剖学』

たとえば、横隔膜の位置と動き、そして横隔膜はそもそもどこから来たのか?鮮明な図解と簡潔な説明で、私自身の横隔膜も、以前より生き生きとしてきたように感じます。読んでくださる皆さんの歌うことの助けになるように、2ページの見開きで43項目にまとめました。

肺がどのように進化してきたのか、ヒトの肺はどんな大きさか?どこにあるのか?案外、実際とは違う位置に思い、ちょっと小さく思っている人が多いのです。改めて実際がわかると、歌うときの呼吸がより自由になるでしょう。

こんなことを首の骨について、顎について、足についてなどなど、全身にわたって簡潔に解説しました。

4.歌唱法とは別に
「歌うよい楽器に訓練する」という概念

歌いはじめた最初から、大きい声や高い声が出やすい人、速い音符が続いても苦労なく軽々歌える人、息もよく続いて長いフレーズを音楽的に歌える人がいるでしょう。一方、それらができない人もいます。その原因を「音楽する」こと(=歌唱法)から区別することで解決策を明確化し、「よい楽器をつくる」具体的で画期的なトレーニングを提唱したのが、木下武久先生(1924-1990)です。

木下武久先生

木下武久先生 1989年

他の楽器でいうなら、調律ができていない楽器、はたまた最初から全部の音がちゃんと出ないいくらか壊れた楽器を使って多くの人は歌いだしているので、その楽器を改善しよう、元に戻して完成させようというのです。実際には人のからだのことで物ではないので、繊細で複雑なしくみの理解も必要です。

息が長く続くように単に腹筋や呼吸のトレーニングを繰り返しするのではなく、歌う際の意識と無意識、個人差の大きい歌う感覚のこと、声質の違いなどを考慮に入れ、最終的にその人が思うように歌える「反応のよい楽器に訓練する」ことを目標としました。そして、発声に悩みを抱えた職業的歌手や指導者を多く助けました。

木下先生の名言の中には、「理論的に正しくても、歌声はよくならない」「よい声が出たとき要注意」「発声的に何かを発見したと感じたとき、決してそれをつかもうとあせって何度も繰り返して試さないこと」「同じ傾向の曲の練習を長く続けない」「どんなに重い声の人でも、アジリタのテクニックは必要である」などがあります。

私は、1983年(大学2年生の時)から、1990年に木下先生が亡くなるまで、個人レッスンを受講しました。特に、大学院の修士論文では木下氏のメトードについて執筆し、15歳から69歳の先生の生徒さん92名からのアンケートを回収することができました。それにより、トレーニングの効果や精神状態、また音楽生活そのものがどのように変わったかもわかりました。この論文は先生の考えを初めて公の文章にしたもので、いくつか残っている先生が書いた小冊子より前のものです。このとき木下先生は「いずれこのトレーニング法を書籍にするので、その執筆の際には手伝うように」と、私に言われました。もちろん喜んでうなずいたのを覚えています。しかし先生は、それを執筆される前に66歳で急死されました。

私のレッスンでは、必要に応じて、木下先生から学んだ反応のよい歌う楽器となるためのトレーニングの方法をお教えします。


レッスンには、次のようなものがあります。

《川井弘子のレッスン》

●個人レッスン: 1コマ50分 受講料:20,000円
●グループレッスン: 90分もしくは120分のレッスンで4~8人のグループで開催。ひとりずつ歌ってもらいレッスンしていきます。
受講料:8,000~10,000円 グループレッスンは場合によって、聴講ができる場合もあります。(聴講料あり)

>>レッスンの場所:東京・京都・大阪・倉敷・鳥取

●オンライン個人レッスン: 1コマ60分 受講料:10,000円

●講座:朝日カルチャーセンター新宿オンラインがあります。

4月:《歌う解剖学復習シリーズ⑨》発声用語を解説する(その2)