2015年4月に、「うまく歌える『からだ』のつかいかた~ソマティクスから導いた新声楽教本~」を誠信書房から出版しました。お声掛けいただいてから、なんと3年の月日を要していました。歌うことを、わかりやすく、客観的に文章にすることの難しさをまざまざと感じた3年間でした。

歌えるようになるには、「ボディ・マッピング」だけでは足りない、もっと別の要素も加えたいと思っていた私にとっては、絶好のタイミングであり、大きな意味がありました。

一方、「歌う時に邪魔にならない文章にすること」も、私の大きな目標であり、挑戦でした。理論だけを一人歩きさせたくなかったのと、読んでくださる方がそれぞれの感覚を使って、最終的に歌うことを完成できるにようにしたかったからです。そのために、書いては歌い、歌った直後に読んでみて違和感がないか推敲し、また書いて歌って…という作業を続けました。

その過程で大抵はかなり削除し(笑)、そう、歌った後では、まったくその説明が必要のないこと、意味のないこともありました。歌う私たちには、理論のための理論、単なる興味深い研究は必要ありません。歌う準備としての、歌う人が知っておくとよいこと、誤解を招きやすいことをどう書くか。文章もなるべく短くしました。ここに、解剖学や音声のお医者様ではなく、歌う私が書く意味があると感じました。

一方、この間にアムステルダムのマリアンネ先生のところにも何回か行き、リサイタルも何回か挟みましたので、時には、1・2か月まったく書くことから離れることもありました。そのたびに新鮮な気持ちで原稿に向かい、(自分が書いた原稿なのに、まったく意味がわからなかったりもしました…笑)、なんとか意味ある共通のことを、共通語を使って書くことに務めました。(それがどこまで実現できたかは、皆さんからのご意見を待つとして、とにかくベストを尽くしました。)
書き終わると、自分自身にも不思議なことがいっぱい起こっていました。自分の歌にも、生徒の歌についても、認識できることが増えていました。歌い方も、レッスンのしかたも少しずつ変わってきました。音楽の中でも特に声楽はもっとも感覚的なものですが、文章にする、きちんと意識し整理することの意味を感じました。(もちろん、言葉にならないことの重要性も知っているつもりです。)

この本は、多くの先生方との出会いと、今の自分の歌うという体験と、実際にレッスンに来てくださる皆さんとの共同作業のような作品です。ですので、完成はしていないし、ここから発展させたいと思っています。もしよろしかったら、講座やレッスンにお越しくださり、どうかいろいろ質問してください。 歌って、悩みや疑問点を打ち明けてください。 そういうサークルの中で、皆さんと一緒に、歌うことを深めていけたらいいなと思っています。

それから最後に、「うまく歌おう」としないでください。本のタイトルは「うまく歌える」ですが、「うまく歌える」かどうかは歌う私たちの関知することではないからです。
それを気にしない時、私たちは自分が思った以上のことができるような気がします。

感謝とともに。
Enjoy yourself !!

 

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