音楽家の抱える障害でもっとも深刻なものは、「フォーカル・ジストニア」(Focal Dystonia)でしょう。

症状としては、例えばピアニストやヴァイオリニスト、ギタリストなら、自分の意思とは全く関係なく(あるいは自分の意思に反して)、突然、指が跳ね上がったり、丸まったりします。フルート奏者の指あるいは唇や顔面に、声楽家なら声帯の動きが…自分の意思とは反した動き(自分では全く理解できない動き)が現れることがあります。いずれも、そうならないように気をつけると、ますますその症状はひどくなります。

 

試験やコンクールのために練習時間が増えた時、先生が変わって急にテクニークを変えようと努力した時、極度の精神的緊張を強いられた状況下で、違和感がある…そういう些細な感じ・症状から始まるようです。

通常なら、からだが疲れるので、練習を中断できるはずです。しかし、精神的に追い込まれている状況の中では、からだからのメッセージが脳に届きません。そのため繰り返しの練習をやめることができず、ある日突然、ヒューズが飛んだように…やがて日によっては急に、指が跳ね上がる、丸まるということが起こります。しかし、楽器を演奏する時にしか起こらないし、日によってその症状の現れ方はまったく違います。自分ではただ少し違和感があるだけなので、練習のしかたが悪いのかと思って、工夫してますます練習することに。するとすればするほど、指の巻き込みは激しくなります、不安も募ります。これが、典型的な音楽家の「フォーカル・ジストニア」の症状です。

ふつうならどこかで、休憩をとったり、休めたはずです。うまく行かなければ、嫌になって、繰り返しの練習をしなくなるでしょう。もしそうであれば、この症状は起こりません。休むこと、止めることも大切なのです。(でも、すぐに休んでばかりで練習をしない人は、これにはあてはまりません…笑)

一方、これらの症状を病院に行って訴えても、演奏家に対する知識がなければ、それは軽症どころか単に精神的なものだとして、安定剤のようなものを処方されるか、全く相手にしてもらえないようです。音楽家にとっては致命的でも、お医者様から見れば、まったく生命には危険のない、些細な動きの異変にすぎないのですから。

私のところにレッスンに来たギタリストは、病院に行ったら、「指はとてもよく動いているように見えますが、どこかおかしいのですか?」、と言われたそうです。

アンドーヴァー・エジュケーターズ®は、今、この病気を「ボディ・マッピング」を使って改善しようと脳科学の専門家と一緒になって研究しています。私もアンドーヴァー・エジュケーターですが、私の考えは少し違って、「音楽家のフォーカル・ジストニアはボディ・マピングでは改善しない」、と思っています。なぜならば、「ボディ・マッピング」は脳からからだへのアプローチだからです。私のところにも、時々、フォーカル・ジストニア、あるいはそれに似たような症状を持ってレッスンに来る人がありますが、その時は「ボディ・マッピング」を使用しないで、直接のからだからのアプローチからレッスンしています。

私がとても信頼する友人の一人、スペイン人のホアキン・ファリアスは、自らの指のフォーカル・ジストニアを改善させ、そして今では世界中の同じ悩み・症状を持ったプロの音楽家たちを大きく改善させていることで著名です。彼は古楽とハープシコードをオランダで学んだ人ですが、声楽を私と同じマリアンネ・ブロック先生に師事しました。

2008年、初来日の時、私は通訳として彼の個人レッスンに立ち会ったことがあります。知的で、やさしい性格とともに、医学(脳)と音楽、そして動きを熟知した指導はすばらしく、症状の改善は個人差はありますが、どの人も見事でした。

2008年3月8日東大にて
左から、渡會公治先生、Dr.Joaquin Farias、私、工藤和俊先生
あれから9年経って、今は、カナダの大学で教えています。
もし、ご自分の症状が「フォーカル・ジストニア」かもしれないと思われる方、多くの病院に行ったけれど改善していないと言われる方は、一度、こちらのHPをご覧ください。日本語の本とDVDもあります。

ファリアス・テクニーク(ホアキン・ファリアス博士 Dr. Joaquin Farias)

http://www.fariastechnique.com/

また、彼にコンタクトされることをお勧めします。日本語でのメールのやり取りも可能なはずです。コンタクトの際には、私のHPで知ったと是非、一文添えてくださいね。

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